風光る春。

木々の間を吹き抜ける風がやさしい。やっぱり、もう春なんだな。
初心者でも簡単な所だからと、友人たちに強引に誘われて
久しぶりに山登りをすることになってしまった。山なんて学生の頃以来だ。
でも来てみると、自然の中を歩くのは確かに気持ちいい。

あちこちでさえずる鳥の姿を探して木立を見上げていると、
「コノメカゼって知ってる?」と友人。聞いたこともない。風邪の一種?
自分も最初に聞いたときはそう思ったと笑いながら、
「木を芽吹かせる春の風のことなんだって。木の芽と書いて、木の芽風(このめかぜ)」
改めて漢字でイメージすると、とてもキレイな言葉だ。
頬をなでていく風が、さっきまでよりずっとやわらかく感じられる。
木々の枝先でふくらんでいる芽も、春を喜んでいるように見えるから不思議。
風にそんな名前をつけるなんて、天才だね。
友人は山仲間の大先輩から、その言葉を教わったという。
「俳句の先生をやっていて、すごく素敵なおじいちゃんなの」
その大先輩によれば、日本には風の名前だけで2000以上もあるのだとか。
春ならば、雪解けの頃の雪解風(ゆきげかぜ)、花が咲くのを知らせる花信風(かしんふう)、
そしてよく知られている春一番や桜を散らす花嵐。どれも春の季語だそうだ。
刺すようだった風が少しずつ暖かくなってくると、いつの間にか雪が解けて、
木の芽がふくらんで、花が咲いている。日本人にとって、
季節を運んでくるのは風なのかもしれないね。そういえば、「風光る」という
春の季語も教わったと友人。陽ざしが明るさを増して、
風までも輝くように感じる。そんな春の喜びを表現しているのだとか。
「で、‘風薫る’は初夏の季語なんだって」春の風は光り、初夏の風は薫る。
風の中に季節の気配を感じるなんて、すごく豊かで贅沢な気がする。

山頂にたどり着くと、眼下で春の景色がきらきらと風に揺れていた。
あ、風が光ってる。じゃあ、初夏に薫る風はどんなだろう。
「また、山登りに誘って」思わずそういうと、友人たちはニヤリと笑って
「どういう風の吹き回し?」と口を揃える。もしかして、ハメられた?

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